私という主観の考察。2(私は私を嫁にする)
前回の続きになります。では、どうぞ
「遅刻ですね」「ですね」
すでに閉まっている校門の前で佇む二人は、がっかりした顔を張り付けている。
「はあ、」
仕方なく、校門で隔てられた向かい側、学校の構内に自分が居ることをイメージすると空間が歪んで人影が作られる。その後、構外にいる二人に空間の歪みの中へ消えてもらい、走って教室へ急ぐ。
「ぜえぜえ」「はあはあ」
「「遅くなりました。「ぜえ」「はあ」」」
「授業始まってますよ、早く座って。」
「隣の教室から、椅子を取ってきます、少々お待ちを。」
と言いつつ椅子を用意して自分の机に二つ椅子を並べた。
「あと聞きますが、どちらが本物ですか。」
「そうだよ、一人増えてるし」
「何、変装、マジックか何か?」
「バカが二人に、くくっ」
「「どちらも、私です、疑いようもなく私のパーソナリティーなのです」」
「おおー」
(ふぇ、落ち着いたら隣に人がいるのって、新鮮。)
教科書は机の中にしまってたし、二人で一つの教科書を使わなければならない。
横を見ると不機嫌そうな顔を、ノートと黒板に向け見比べている。
(何、)
っていう目つきに、(みちゃわるいかー)とツッコむ
休憩中、まっすぐ伸ばし手をそのまま机に引っ掛ける。腕と腕の間に顔をうずめ、先のことを考える
(とりあえず体が二つに増えたわけだが、食費も増えるし、洗濯も服も増えるかも、リターンを増やさないと損になる。)
隣を向くと、同じくこちらを覗く目が二つ。同じく腕を頬に擦り付け、箱に入った猫を見るような目で見てくる。眉は訝しげに逆への字、人差し指で目の前の彼女の頬を突く。同じく突かれる自分の右頬、突く方の彼女の顔は恍惚とした、歪んだ笑みを浮かべている。
「自分を見ると、なんだか落ち込む。」
腕の間に顔を埋め、自己否定に努める。
しばらく、私は電池切れだった。
帰り支度を済ませ、早々と教室を出る。早足で進むと後ろからドッペルゲンガーに追い抜かれる。スピードを上げ相手を追い抜くと、向こうは走って私を追い抜いて行く。
「待てー」「待てるかー」
お互いもはや自分の全力を絞り出しもう一人の自分の一歩先を確保しなければ、気が済まない、プライドとの戦いになっていた。
「待てー、ドッペル」「ドッペル違っがいますー」
「ぜいぜい」「はあはあ」
家にたどり着いたころには、足は棒になり
「もう一歩も動けません」「なんで私まで、こんなことに」
という状態になっていた。
「「ただいまー」」
かぽーん、
あれ、
「なんでいるの?」「なんでいるの?」
湯気に浮き立つ女体が二つ、
「なんでいんの、早く出てけ!」「あんたこそ、なんでよ早く出てけ!」
いつもの調子でお風呂に入れば、記憶も意識もコピーされたもう一人の自分は全く同じことをする。つまり無意識に二人とも同じことをしていたということらしい。
「服、洗濯しちゃったし、温まるしかないか。」
あわぶくぶく、三角座りで猫背な背中を隠しつつ
「なんで、いんのー」
と泡交じりに独り言をいう。
目線は上目使いに相手を睨んでいる。
あわぶくぶく、「わーー」
右手の人差し指で、相手のすねを突く。人差し指に中指を足し、カニのはさみですねを掻き、ひざから下まで撫でる。
「にやっ」
すねからふくらはぎに指を移し、五指でくすぐる。
「ぅっ、ぐっ、くく、ひぃ、にゃ、ふぁ、ははぁ、ははははは。」
私も笑ってしまってるけど、何とか彼女を笑わせれた。
「ふふ、こんなことで、笑うなんて、くぃ、お子ちゃまなのね、わはは、」
「ふん、あなたこそ、私の指に掛かれば、ふぐっ、すぐに笑わせてあげるわ。にゃはは、」
「疲れたー」「笑いすぎだー」
二人は私室に戻り、今の状況について考え始めた。
事の発端は、夢の中に現れた、天の声に、ナイフを渡されて。そのナイフで体を切ると二つに分裂するという事か。
「あの天の声が誰なのかも謎だけど。」
「なんで、このナイフで切ったら分裂するのかな。」
手のひらから銀飾のナイフを取出し近くにあったボールペンを二つに切る。すると一本だったボールペンが二本になる。
紙を取出しペンでなぞる。どちらのペンもインクが出て、ちゃんと書ける。
このペンと同じように、頭の中から内臓まで、まるっきりコピーされてるんだね。
「皮肉ですか、」
「何も、口に出してないですよ!」
「顔、を見れば分かります。」
外を見れば日も暮れてきた。手を出して窓を開けてみると冬の風が部屋に吹く。ふと隣を見ると鏡で見る顔が外を眺めている。腕を組み外からの冷たい風から自らの体温を守っている。私が彼女を見つめていると彼女もそれに気づいたようで目線を合わせてきた。腕を組む姿はそのままに「なんなのよ」という目で見つめてくる。
部屋の空気を入れ替え窓を閉める。
もう一人の私はベットで足をゆっくりばたつかせ端末をいじっている。
「携帯は一つしかないんだから、私にも使わせてね。」
「うん、そだねー」
「聞いてないじゃん。」
携帯から目をそらすことなく、彼女は了解の返答をする。
「はぁーー、なにしてんの」
と私はベットでごろごろする私の体に聞いてみた。私もベットにひざを付きもう一人の私の首に腕をからめた。彼女の背中に脇腹を擦り付けスキンシップを試みる。
「別にー、何もしてないですよー」
「あ、メール来た。返信返信」
「って、勝手に返信するなー」
「ふぇ、なんで?」
「そのメールには、私の気持ちが入ってないじゃない。」
「入ってるよ、私の気持ち」
「あなたの気持ちは私の気持ちじゃないんですー、同じじゃないですー」
「同じだよ」
「くっ、とにかく私の気持ちはあなたの気持ちじゃないんですよー、あんたは左手でわたしは右手でメールを打つの、それでいいでしょ。」
「うっとうしい。」
「全然打てない。」
「そだね」
試しに二人で片手ずつ使って、端末を使ってみた。
なんというか、こんなこと思いついた自分がばかだった。と後悔するほど使いにくかった。
「やっぱり、私が使うわ、それでいいよね。」
「そんなわけないでしょ、私が使うわ、それでいいよね。」
どちらも譲らず、端末を掴んで離さない。
「はあ」「はあ」
チェス盤を引っ張り出し、駒を並べる。
「ありえないんですけどー」「それはこっちのせりふ。」
秒速で三十手を読みきり、駒を取るスピードも常人離れしている。二分半という、普通ではありえない速さで勝負は終わり、敗者は駒と盤を元に戻す。
「ちっ」
「舌打ち、感じ悪いよん。よーし、やったぁー」
我ながら、セコイ争いだと思いながら、勝者の証である。端末に手を伸ばす。
足をばたつかせつつ、端末をいじる。ふと気が付く
「ねぇ、このアプリってなにー」
不思議に思って聞いてみた。
「さっき入れてみたんだけど、なぁあにかなー」
「別っつにー、なーんでもないよー」
想像してみてほしい、自分の端末にダウンロードした覚えのないアプリが入っていたとした時、まず不快という気持ちを感じるだろう。そして、この一台を共有している人物がもう一人の私だというのも、この話をややこしくしている。
つまり
「別にーぃ」
という気持ちなのだ。
続く
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「遅刻ですね」「ですね」
すでに閉まっている校門の前で佇む二人は、がっかりした顔を張り付けている。
「はあ、」
仕方なく、校門で隔てられた向かい側、学校の構内に自分が居ることをイメージすると空間が歪んで人影が作られる。その後、構外にいる二人に空間の歪みの中へ消えてもらい、走って教室へ急ぐ。
「ぜえぜえ」「はあはあ」
「「遅くなりました。「ぜえ」「はあ」」」
「授業始まってますよ、早く座って。」
「隣の教室から、椅子を取ってきます、少々お待ちを。」
と言いつつ椅子を用意して自分の机に二つ椅子を並べた。
「あと聞きますが、どちらが本物ですか。」
「そうだよ、一人増えてるし」
「何、変装、マジックか何か?」
「バカが二人に、くくっ」
「「どちらも、私です、疑いようもなく私のパーソナリティーなのです」」
「おおー」
(ふぇ、落ち着いたら隣に人がいるのって、新鮮。)
教科書は机の中にしまってたし、二人で一つの教科書を使わなければならない。
横を見ると不機嫌そうな顔を、ノートと黒板に向け見比べている。
(何、)
っていう目つきに、(みちゃわるいかー)とツッコむ
休憩中、まっすぐ伸ばし手をそのまま机に引っ掛ける。腕と腕の間に顔をうずめ、先のことを考える
(とりあえず体が二つに増えたわけだが、食費も増えるし、洗濯も服も増えるかも、リターンを増やさないと損になる。)
隣を向くと、同じくこちらを覗く目が二つ。同じく腕を頬に擦り付け、箱に入った猫を見るような目で見てくる。眉は訝しげに逆への字、人差し指で目の前の彼女の頬を突く。同じく突かれる自分の右頬、突く方の彼女の顔は恍惚とした、歪んだ笑みを浮かべている。
「自分を見ると、なんだか落ち込む。」
腕の間に顔を埋め、自己否定に努める。
しばらく、私は電池切れだった。
帰り支度を済ませ、早々と教室を出る。早足で進むと後ろからドッペルゲンガーに追い抜かれる。スピードを上げ相手を追い抜くと、向こうは走って私を追い抜いて行く。
「待てー」「待てるかー」
お互いもはや自分の全力を絞り出しもう一人の自分の一歩先を確保しなければ、気が済まない、プライドとの戦いになっていた。
「待てー、ドッペル」「ドッペル違っがいますー」
「ぜいぜい」「はあはあ」
家にたどり着いたころには、足は棒になり
「もう一歩も動けません」「なんで私まで、こんなことに」
という状態になっていた。
「「ただいまー」」
かぽーん、
あれ、
「なんでいるの?」「なんでいるの?」
湯気に浮き立つ女体が二つ、
「なんでいんの、早く出てけ!」「あんたこそ、なんでよ早く出てけ!」
いつもの調子でお風呂に入れば、記憶も意識もコピーされたもう一人の自分は全く同じことをする。つまり無意識に二人とも同じことをしていたということらしい。
「服、洗濯しちゃったし、温まるしかないか。」
あわぶくぶく、三角座りで猫背な背中を隠しつつ
「なんで、いんのー」
と泡交じりに独り言をいう。
目線は上目使いに相手を睨んでいる。
あわぶくぶく、「わーー」
右手の人差し指で、相手のすねを突く。人差し指に中指を足し、カニのはさみですねを掻き、ひざから下まで撫でる。
「にやっ」
すねからふくらはぎに指を移し、五指でくすぐる。
「ぅっ、ぐっ、くく、ひぃ、にゃ、ふぁ、ははぁ、ははははは。」
私も笑ってしまってるけど、何とか彼女を笑わせれた。
「ふふ、こんなことで、笑うなんて、くぃ、お子ちゃまなのね、わはは、」
「ふん、あなたこそ、私の指に掛かれば、ふぐっ、すぐに笑わせてあげるわ。にゃはは、」
「疲れたー」「笑いすぎだー」
二人は私室に戻り、今の状況について考え始めた。
事の発端は、夢の中に現れた、天の声に、ナイフを渡されて。そのナイフで体を切ると二つに分裂するという事か。
「あの天の声が誰なのかも謎だけど。」
「なんで、このナイフで切ったら分裂するのかな。」
手のひらから銀飾のナイフを取出し近くにあったボールペンを二つに切る。すると一本だったボールペンが二本になる。
紙を取出しペンでなぞる。どちらのペンもインクが出て、ちゃんと書ける。
このペンと同じように、頭の中から内臓まで、まるっきりコピーされてるんだね。
「皮肉ですか、」
「何も、口に出してないですよ!」
「顔、を見れば分かります。」
外を見れば日も暮れてきた。手を出して窓を開けてみると冬の風が部屋に吹く。ふと隣を見ると鏡で見る顔が外を眺めている。腕を組み外からの冷たい風から自らの体温を守っている。私が彼女を見つめていると彼女もそれに気づいたようで目線を合わせてきた。腕を組む姿はそのままに「なんなのよ」という目で見つめてくる。
部屋の空気を入れ替え窓を閉める。
もう一人の私はベットで足をゆっくりばたつかせ端末をいじっている。
「携帯は一つしかないんだから、私にも使わせてね。」
「うん、そだねー」
「聞いてないじゃん。」
携帯から目をそらすことなく、彼女は了解の返答をする。
「はぁーー、なにしてんの」
と私はベットでごろごろする私の体に聞いてみた。私もベットにひざを付きもう一人の私の首に腕をからめた。彼女の背中に脇腹を擦り付けスキンシップを試みる。
「別にー、何もしてないですよー」
「あ、メール来た。返信返信」
「って、勝手に返信するなー」
「ふぇ、なんで?」
「そのメールには、私の気持ちが入ってないじゃない。」
「入ってるよ、私の気持ち」
「あなたの気持ちは私の気持ちじゃないんですー、同じじゃないですー」
「同じだよ」
「くっ、とにかく私の気持ちはあなたの気持ちじゃないんですよー、あんたは左手でわたしは右手でメールを打つの、それでいいでしょ。」
「うっとうしい。」
「全然打てない。」
「そだね」
試しに二人で片手ずつ使って、端末を使ってみた。
なんというか、こんなこと思いついた自分がばかだった。と後悔するほど使いにくかった。
「やっぱり、私が使うわ、それでいいよね。」
「そんなわけないでしょ、私が使うわ、それでいいよね。」
どちらも譲らず、端末を掴んで離さない。
「はあ」「はあ」
チェス盤を引っ張り出し、駒を並べる。
「ありえないんですけどー」「それはこっちのせりふ。」
秒速で三十手を読みきり、駒を取るスピードも常人離れしている。二分半という、普通ではありえない速さで勝負は終わり、敗者は駒と盤を元に戻す。
「ちっ」
「舌打ち、感じ悪いよん。よーし、やったぁー」
我ながら、セコイ争いだと思いながら、勝者の証である。端末に手を伸ばす。
足をばたつかせつつ、端末をいじる。ふと気が付く
「ねぇ、このアプリってなにー」
不思議に思って聞いてみた。
「さっき入れてみたんだけど、なぁあにかなー」
「別っつにー、なーんでもないよー」
想像してみてほしい、自分の端末にダウンロードした覚えのないアプリが入っていたとした時、まず不快という気持ちを感じるだろう。そして、この一台を共有している人物がもう一人の私だというのも、この話をややこしくしている。
つまり
「別にーぃ」
という気持ちなのだ。
続く
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